小鳥さんを飼育するということ
酷暑の夏がやってきました。おうちの中でもしんどいこともあるのに、お外の野生動物たちはどうしているのだろうと心配になる方もいるでしょう。飼い主さん自身もお出かけの際に体調を崩してしまったという方もいるかもしれません。一方、鳥かごの中で決められた食事だけ与えて過ごさせることに罪悪感を覚えている方も少なくないでしょう。せめてお部屋の中で自由にさせたほうが良いのではないか、そういったご相談もしばしば寄せられます。そこで今回は、おうちで小鳥さんを飼うということはどういうことなのか、今一度考えてみましょう。
まず、野生化の環境とはどういったものでしょうか。
周囲の気温や湿度は生息地の気候次第になります。晴れて暑い日もあれば暴風雨に晒される日もあるでしょう。木陰でやり過ごせることもあれば、仲間と身を寄せ合っても凍えてしまうこともあります。
ごはんが見つかるかどうかも状況次第です。たっぷり食べられることもあれば、少ししか手に入らないこともあるでしょう。植物食の鳥さんたちは完全に飢えることはそれほど多くないという説もありますが、肉食の鳥さんの場合獲物が見つかるかどうか、またそれが獲れるかどうかにもかかってきます。
天敵や感染症の危険も常に伴います。襲われて命を落としたり、運良く逃げ切れても怪我を負ってそこから衰弱したりすることもあります。細菌やウイルス、寄生虫などに感染してしまうこともあります。
一方、よくある鳥さんのイメージとして、‘自由’があると思います。確かに、どこで過ごしどういったパートナーを選び生きていくかという点では自由かもしれません。
飼育されている鳥さんとはどういったものでしょうか。
まず、基本的に室内で過ごしているため温度や湿度はある程度人間のコントロール下にあります。家の構造や家電の性能などによって差はありますが、少なくとも人間が過ごせないほどの環境になることは少ないでしょう。冬も小鳥さん用ヒーターを使うご家庭が増え、凍えることもまずありません。もっとも、近年の猛暑でお部屋が思ったよりも高温になってしまった、ヒーターが故障してしまい温度管理ができなかったという事故はしばしば起こってしまうようです。カゴの中ではちょうどいい温度の場所に逃げることもできません。
ごはんもわざわざ探し回る必要はありません。飼い主さんが全て用意してくれます。逆に言えば与えられるもの以外は食べることはできません。もっとも、探求心の強い子であれば袋や箱を食い破って人間の食べ物を盗み食いしてしまったり、観葉植物や家具などを齧ってしまって中毒を起こしたりすることがあります。
他の動物さんを一緒に飼っていたりノラ猫さんが自由に出入りしたりするようなご家庭で無ければ基本的に天敵のリスクはほぼないでしょう。しかし、飼い主さんやそのご家族自身が小鳥さんを危険にさらしてしまうことはあります。踏んでしまったり扉で挟んでしまったり、小鳥さんには有毒なものを知らずに使用してしまったりというケースが後を絶ちません。
感染症などの病気はお薬などで治すことができます。しかし、体力のぎりぎりまで小鳥さんが不調を隠してしまったり、通院自体が大きなストレスとなってしまい最悪通院だけで命を落としてしまう子もいたりと、医療も万能ではないのが現実です。また、飼育下では野生下よりも(おそらく)はるかに長生きすることになります。それに伴い腫瘍や内臓疾患、老衰などになる子が多くみられます。投薬や点滴、強制給餌など人間のサポートが欠かせなくなる場合もあります。
ここまで比べてみて、皆さん様々なことを考えられたと思います。おうちの中での過ごさせ方には様々考え方や意見があると思いますが、まず前提としてほぼすべての小鳥さんは人間側の意思でお迎えされています。雛の頃から人間の管理下で野生の生き方を知らないまま成長してきた子たちです。人間とともに暮らす以上、本来の生き方とは異なる習慣を強いられます。そのうえで小鳥さんにどう過ごしてもらうか、人間の生活リズムとどう折り合いをつけるかを考える必要があります。自由に食べさせ自由に遊ばせる、それも考え方の一つでしょう。しかしそれは肥満やそれに伴う疾患、事故や誤食による中毒と隣り合わせの過ごし方になります。
病気や事故のリスクを最小限にするためには、小鳥さんは基本的にケージで過ごし、毎日体重測定の習慣をつけ決まった量のバランスの良い食事を与え、放鳥時間は30分~1時間ほどで区切ることが推奨されます。しかしご家庭やその子の性格などにより必ずしも全て実行できるわけではないでしょう。その子やおうちの状況に合った飼い方を病院で一緒に考えてみましょう。ぜひ相談してみてくださいね。